付きあってから、しばらく時間が経った。
お互い、関係は良好なはず。
しかし、彼女と心を重ね、身体を重ね合ううちに、不意に赤黒い脅迫的な空想が頭をもたげてくるようになる。
彼女は、自分と付き合う以前は、誰とどんなふうに愛しあっていたのだろうか。
そのとき、彼女は、自分が抱いたときと同じように、紅潮した表情で、甘く艶やかな嬌声で、愛にもだえていたのだろうか。
一度、頭をもたげた「病的な嫉妬」はひりつくような痛みで、胸や胃の中身を強力な酸で焼きつくすように離れない。
彼女が、その男の下になって、自分たちが試した様々なやり方で愛しあっている情景が、願ってもないのに幾度となく脳によぎってくる。
それが、どれほど不合理で無意味なことかと知っていても、その生々しいイメージを頭から追い払うことは簡単なことではない。
今回は、そんな不合理な病的な嫉妬に苦しむ男性についての記事を書きました。
彼女を自分から離れられなくしたいという気持ちや、他の男性との性関係を無意識にイメージしてしまう「病的な嫉妬」はなぜ起こるのでしょうか。
そして、病的な嫉妬を克服するにはどのようにすればよいのでしょうか。
なぜそんな嫉妬をしてしまうのか
さて、彼の心を焼きつくしてしまうような嫉妬の炎は、なぜ生じているのでしょうか?
答えはしごく単純で、それが本能だからです。
進化心理学的に言えば、男性が最も恐れることは、最愛の人が他の男性に抱かれることです。
男性が、自分のパートナーを愛しく、かわいく思えば思うほど、彼はそれが誰かに奪われてしまうことを恐れるようになっていきます。
それは、パートナーを信頼しているとか信頼していないとかの話ではありません。
本能なのです。
愛と嫉妬は、コインの表と裏のようなものです。
どれほど精神的に成熟した人であっても、愛している人に対して起こる嫉妬の心を感じないことはできません。
性的嫉妬をかきたてる空想
これほど執拗に嫉妬をかきたてるような性的空想は、全くの妄想と呼ぶべきものなのでしょうか。
ところが、進化心理学的にみれば、男性の持つ病的なまでの嫉妬は「妄想」ではなく「予想の範囲内」と言うことができます。
進化の歴史の過程で男女は恋のダンスをおどるようになりました。
それは、愛情と嫉妬を行ったり来たりする情熱のダンスです。
人間は、他の哺乳動物と異なり、子どもを産み、育てるために莫大な期間と労力が必要となります。
そのため、男性と女性が助けあって家庭を築く必要がありました。
しかし、本来雄が子育てに参加したり、雌に寄り添うということは、生物界ではごく稀です。
そして、子どもを産み、育てるために莫大な時間と労力がかかってしまう人間は、性的に「束縛しあう」という一つの駆け引きの手段を発達させてきました。
女性は、発情期をなくし、排卵期がいつなのかわからなくすることで、男性が寄り添わざるを得ないように進化してきたのです。
彼女から目を離せば、彼女は他の男性と関係を持つかもしれません。
そうすると、「自分の子ども」を確実に残すことは難しくなります。
進化心理学的には、男性がなぜ結婚するのかというのは、まだ謎です。
今のところ、「パートナーを監視するために結婚するようになった」というのが、最も有力な説なのです。
浮気する遺伝子が裏づける嫉妬
人間は生物学的に言えば、乱婚型と単婚型のハーフです。
つまり、特定の配偶者を持ちながら、別の異性と関係を持つことでも遺伝子を残してきました。
例えば、男性の精液には、キラー精子と呼ばれる精子が存在します。
これは、自分以外の男の精子を標的に、攻撃し、自滅する精子です。
別名神風精子とも呼ばれます。
人間の女性は進化の過程で、配偶者以外の男性とも関係を持つということをしてきたのです。
そして、それに対抗すべく男性は精子を進化させてきたのです。
彼は浮気などしたことがないかもしれませんし、彼女は貞淑な女性かもしれません。
しかし、彼の先祖も、彼女の先祖も、確実に浮気をしてきたのです。
そして、人間の本能的な浮気に対抗するために進化したのが、「嫉妬心」です。
だとしたら、性的な嫉妬を駆り立てる「空想」は、単なる「妄想」ではありません。
進化の歴史と遺伝子に裏づけられた「予想」なのです。
そして、その「予想」は、男性に彼女を「絶対に手放したくない」という強い意志を与えてくれる太古の知恵なのです。
嫉妬と向き合うということ
性的空想による嫉妬は、ある程度までは正常なものということができます。
そして、適度な嫉妬は、男と女の愛をより深めていきます。
嫉妬心は彼女に対する献身的な気持ちを高めてくれます。
一方で、嫉妬は同じくらい支配的で暴力的な衝動をも生み出してしまいます。
過度な嫉妬心は、愛をも壊してしまうのです。
そのため、嫉妬とうまく向き合っていく必要があります。
それでは、嫉妬心はどんな時に強くなるのでしょうか。
パートナーに異性が接触してきたときに起こる嫉妬は、当然のものであり、正常です。
しかし、異常に病的な嫉妬というのも確実に存在します。
異常に病的な嫉妬は、過去が作り出す場合もあります。
過去に親の浮気を目撃した経験や、パートナーに裏切られた経験を持つと、異常なほど病的に嫉妬深くなることが知られています。
そして、嫉妬心が強くなりやすい二人の関係性というものもあります。
それは、お互いが「つりあっていない」ときです。
実のところ、恋人に対する嫉妬は、配偶者市場において、お互いの「価値がつりあっていない」ときに強く起こるのです。
どちらも、自分が「性的に裏切られるかもしれない」「相手から見放されるかもしれない」というネガティブな期待から嫉妬が生まれています。
そして、このネガティブな期待を克服し、彼女が自分から離れないような関係をつくることが、嫉妬と向き合う適切な姿勢ということができます。
嫉妬への対処
まずは、嫉妬を受けいれることが重要です。
性的嫉妬は決して悪いものではありません。
けれど、強すぎる炎はいずれ自分の身をも焼きつくしてしまうでしょう。
物事を「あるがままに受け入れる」ことで、認知の歪みは小さくなります。
あるがままに受け入れる、とは、考えることを手放し、感じている世界に目を向けるということです。
自分がどんなふうに嫉妬を感じているのか、自分が感じている身体の感覚にだけ焦点を当てます。
思考はネガティブな期待を増幅し、あなたの心を埋め尽くしてしまいます。
そうではなく、「感じている感覚」に目を向ければ、感情をコントロールしやすくなります。
そして、あなたが過去に何か辛い思いをされていたのなら、トラウマの治療をすすめます。
カウンセリングに行ってみることに抵抗があれば、認知行動療法の本を読んでみるなどしてみてはいかがでしょうか。
それから、自己肯定感を高めることが重要です。
自分に自信がないと、どうしても心はネガティブな期待にとらわれやすくなります。
自分磨きを怠らないという意識を持てば、あなたと彼女の関係性にプラスとなるでしょう。
ポイントは、相手に寄り添うことです。
独善的な自分磨きでは、自己肯定感はそれほど高まりません。
相手の求めているものは何なのか、それを満たすような自分磨きをし、実際に相手から認めてもらうことで自己肯定感が生まれます。
最後に、重要なのは、「お互いが少し得をする」関係を目指すことです。
実のところ、恋愛関係で最も長続きするのは、「自分が相手よりも少しだけ得をしている」とお互いに思っているときです。
この認識が、相手と自分の関係性を安定させてくれます。
嫉妬を減らし、愛情を深めてくれるからです。
お互いが少し得をする関係のためには、与えすぎも与えなさすぎもよくありません。
心をつなぎとめたいと思うと、その事実をつい人は忘れがちになってしまいます。
ポイントは、あくまでもお互いが対等な関係であること。
その結果として、「相手よりも自分の方が少しだけ得をしている」という気持ちになることです。
まとめ
どんな男性であれ、意味もなく、性的な嫉妬を駆り立てるような空想に見舞われることは、十分にありがちなことです。
しかし、いかにそれが不合理なことに思えたとしても、嫉妬の心こそが、本来浮気性な人間という動物を一夫一妻へとつなぎとめてきた、太古の知恵なのです。
そして、嫉妬の情は、相手をより大切に想う、献身的な情をわきおこさせてくれます。
一方で、嫉妬は同じくらい支配的で暴力的な衝動をも生み出してしまいます。
異常なほど病的な嫉妬は、過去の傷が作り出す場合もありますが、現在のお互いの価値が不釣り合いだというときにも強く起こります。
嫉妬と向き合う上で重要なことは、自身の嫉妬心を「あるがまま」に受け止め、お互いにとって「少しだけ得な関係」を意識してみることが重要になります。
恋の苦しみで最もつらく受け入れがたいものが、嫉妬だと思います。
しかし、それをかてにすることができれば、二人の愛はより深まっていくものだと思います。
以上、最後まで読んでくださってありがとうございました。